NHKのドキュメンタリー、欲望の資本主義、概要

09 20, 2017 | Tag,社会科学,経済,政治
ブレトンウッズ協定でのケインズ
画像: ウィキメディア・コモンズ


NHKのドキュメンタリー「欲望の資本主義」を見た。備忘録的にここにまとめておこうと思う。英語放送、NHK world で見たので細かな表現は違っていると思うけど。

おおむねトーマス・セドラチェクの経済学を辿る内容なのだと思う。結論は今までのような資本主義のシステムは限界を迎えており、転換期を迎えているというもの。結局のところ結論は出ていないもののプロセスがおもしろかった。

例えば日本の政治家にも「ゼロ成長」を前提とした経済政策を唱える政治家がいる。わたしはこの考え方に賛同できないが、ではなぜ彼らはゼロ成長を前提とする考え方に落ち着いたのか、という理由がこのドキュメンタリーの途中に述べられている気がする。2008年の金融危機以前の成長率を達成することはなぜ不可能なのか。これが大きなテーマの一つとなっている。

様々な人物の対談形式で話が進む。各人のお話の要旨を段落ごとにわけてまとめた。引用っぽく見えてしまうかもしれないけどわたしが要約している。人名のない段落はナレーション及び私の補足。


NHKのドキュメンタリー、欲望の資本主義、概要

今、多くの国が低成長に苦しんでいる。しかし、そもそも世界経済は成長を続けるべきで、そうしなければならないのだろうか。

今の世界経済は需要が足りていない状態にあり、これが成長の枷になっている。理由のひとつは中国の減速であり、中国はさらに量から質の成長への変革に取り組んでいる。また、ヨーロッパは通貨システム(currency arrangement)に問題を抱えている。しかしこの世界的な低成長には、全体として別の要因がある。現在均一でない成長がお金の流れを歪めている状態にあり、そのため底辺からトップへと富が流れる。トップは底辺ほど消費をしないので、結果総体としての需要が低迷している。(ジョセフ・スティグリッツ)

1万人分の収入がある人が1万人分食べるわけではない、という意味だろう。

経済は成長しなければならない、というのは思い込みである。問題は現代の社会制度、金融システムは成長を前提としてしまっていることにある。これは嵐などない前提で船をつくるようなものだ。(トーマス・セドラチェク)

トーマス・セドラチェクは成長を否定するわけではないと断っている。

低成長を避ける方法は存在する。市場経済は本来持続可能なものだった。ところが30年くらい前、人々は市場経済のルールを変えてしまった。効率と生産性を犠牲にし、短期思考主義(short-
termism)に有利なルールに変えてしまった。長期の投資を必要としている人がいるのに、市場は目先のことしか見ていない。これをもう一度成長と繁栄を促すルールに戻す必要がある。(ジョセフ・スティグリッツ)

民主資本主義の原則は「自由」だったはず。「成長」は、あるに越したことはないが、本来はあっても無くてもどちらでもよかった。その後、我々は資本主義が最も効率的なシステムだと信じ、ここ20年くらいで「自由」と「成長」の関係を入れ替えてしまった。嫌な仕事をして必要のないものを買う。買うことが自由であり、変えないと不自由を感じる。これはまるでエデンの呪いである。高度に分業が進むと自分が社会の中で何をしているのかわからなくなる。結果、我々は自分で呪いを作っている。(トーマス・セドラチェク)

成長は究極の義務であるか?

「成長」がある種のバズワード。成長とは何かを定義する必要がある。すなわちGDPは不完全な指標だ。GDPは環境の悪化や資源の枯渇を考慮しないし、どのように富が分配されるか、それが持続可能かを考慮しない。資源を大量に消費し、環境を破壊する物質主義的な成長をずっと続けることはできない。(ジョセフ・スティグリッツ)

持続可能な成長に関してスティグリッツは技術、インフラ、教育への投資を勧めている。例えば「気温上昇を2度に抑える」という国際合意は大規模な投資につながっている。持続可能な需要を生み出している。

おそらくここが意見の分かれ道で、ゼロ成長を前提とする経済理論では、「今後大規模なマーケットは存在しえない、そのためにゼロ成長を前提とした社会システムを構築する必要がある」と考えているようだ。アジアが最後のマーケットだった、という考え方だ。

仕事の創造と仕事の破壊は表裏一体。テクノロジーが経済に良いか悪いかは企業家の考えることではない。短い期間により多くのお金を生み出すことが投資家の目的。投資を通じてより多くのお金を稼ぐというのが資本主義の鍵。(スコット・スタンフォード)

投資でお金が稼げなければ資本主義は成り立たない。金利は年々低下していて、資本主義の未来を懸念する声も聞かれる。しかしスティグリッツは昨今の低金利は経済政策の失敗が招いた経済停滞の結果だとしている。彼によればケインズ以降の経済学は金利の調整機能を誇張する傾向があった。実際には、特に中小企業では信用(credit availability)の方が低い金利より重要だ。(ジョセフ・スティグリッツ)

ポール・クルーグマンも低金利を推している。低金利の時に借り入れをすれば景気がよくなり、借金が返せるようになる、というのだ。しかしトーマス・セドラチェクはこの考えに反発している。借金をして借金を返そうというのは危険な考えだ。銀行家は貸したがらないだろう。(トーマス・セドラチェク)

たとえば温暖化対策に投資すれば金利はすぐに上昇するよ。(ジョセフ・スティグリッツ)

金利が上がらなければ資本主義は成り立たない。そのため政府は金利を下げる、いわゆる金融緩和を行い借り入れをしやすくし、民間投資を促す。しかし銀行家は中小企業にはそうそう貸してくれない。

金利は謎であり、理解することはできない。たとえ道路や大学、研究所を作る投資が良いことだとしても、お金は返さなくてはいけない。成長が加速すれば、それだけ崩壊のリスクが高まるのだ。我々がやってきたことはその実、安定を売って成長を買っていたのだ。金利はアルコールのようなもの。金曜日のアルコールに元気をもらっているような気分になるが、翌日につけがまわってくる。お金は40年後、50年後のお金をタイムトラベルさせているに過ぎない。(トーマス・セドラチェク)

成長への期待が金利上昇の可能性を広げる。これが成長前提の資本主義を作ったのかもしれない。金利は、未来のお金のために人を休むことなく働かせる。金利は禁断の果実だ。

聖書、ヴェーダ、コーラン、どこででもいつでも人は金利について語っている。そしていつでもネガティブに描写される。(トーマス・セドラチェク)

すなわち高利貸しは倫理的にタブーとされていた。ジョヴァンニ・ディ・ビッチ・デ・メディチは金利ではなく、為替差によって富を築いた。金利は時間を超え、キャリートレードは場所を超えてお金をトランスポートさせた。人はより強欲になった。

金利という禁断の果実に免罪符を与えたのがアダムスミス。個人が利益を追求することで、見えざる手が社会を繁栄へと導くと語った。

市場経済の一番のメリットは情報の集積である。誰が何を欲しくて、誰が何をもっているか、という情報が一手に集まり、幾分魔法のように価格が決定される。いくつかの国ではマイナス金利に苦しんでいる。これは資本主義終焉のシグナルという人もいるが、資本主義が死んだというには早い。投資は利益を生んでいる。低金利がしつこく続くようならば我々は金融取引を変化させる必要がある。(アルヴィン・ロス)

市場経済に始まりはない。進化し続けて発展してきた。しかし産業革命で決定的に変わった。資本主義とテクノロジー、サイエンスが結びついたのだ。(ジョセフ・スティグリッツ)

我々のやっていることはとにかく物事の効率を求めているだけだ。旧態の企業からマーケットを奪うこと。需要と供給をうまくかみ合わせるチャレンジ。それがイノベーションだ。(スコット・スタンフォード)

産業革命以降、「個人的利益の追求」というアダム・スミスのアイデアが受け入れられていることが分かる。しかしテクノロジーとアイデアは新たな欲望を生み出し、資本主義を成長依存の物へと変化させてしまった。

欲望はバーチャルである。ピカソの絵を買うとき、高いのはピカソではなく、本物と証明してくれる権威。これが絵の価値を決めている。物の価値は費やした労力でも素材でもない。需要と供給の交差点だ。(トーマス・セドラチェク)

欲望の高騰が社会をゆがませていた。20世紀になり、過激な経済学を発表する人物が現れる。ケインズである。

ケインズは資本主義をミスコンテストに例えた(美人投票)。「この中から一番美しいと思う女性に投票してください。一番多く票を獲得した人に投票したみなさんで賞金を分け合います」。審査員は自分の好みではなく、全体の好みを考慮する。この場合一番よい戦略は、候補者ではなく審査員を見ることだ。この時に勝率の高かったステレオタイプは時間を越え永遠に反響を続ける。人々の好みが変わっても、ステレオタイプは変わらない。サブプライムローンがこのミスコンに当てはまるといえる。アダム・スミスの言う需給のシステム、見えざる手を皆が信じていたが、機能しなかった。(トーマス・セドラチェク)

バブルを防ぐために何ができるか。まずは悪を為そうとするな。2008年以前、多くの経済学者は悪を為したと思っている。彼らは「市場には自浄作用がある」「市場は効率的だ」「市場を信じてバブルを恐れるな」等吹聴した。私利の追求を経済学者はインセンティブと呼び、これを市場経済のコアと位置付けた。我々はアダムスミスは間違っていたと認めなければならない。アダム・スミスは私利の追求が、より良い社会を導くとした。見えざる手が見えない理由は、それが存在しないからだ。(ジョセフ・スティグリッツ)

見えざる手は概念に過ぎない。市場の魔法は、実際には魔法ではなくルールによってもたらされる。マーケットにはルールが存在し、そのルールは誰か一人によってつくられたものではなく増加的に発展してきたものだ。自由なマーケットとはルールの無いマーケットではなく、ルールにより自由が保証されたマーケットだ。(アルヴィン・ロス)

21世紀の市場は18世紀とはまったく違う。でも多くの経済学者がアダム・スミスを引き合いに出す。アダム・スミスの経済学は資本主義の時代の前に書かれたものであり、彼は人々をたしかに啓蒙したが、当時の世には今のような巨大な製造業は存在しなかった。イノベーション・エコノミーがどうあるべきかを考える必要がある。イノベーションはある種のインフラを作る。例えばウーバーやAirbnbなどはインフラになり、シェアリングエコノミーをつくる。こういったものは、大きな影響を持っていることはたしかだが、注意が必要なのは、便利だから、大きな取引をしているからといってそれが社会に良いものであるとは限らない。そして労働者の扱いに気を付けなければならない。独占的な企業は市場の力を濫用できるからだ。(ジョセフ・スティグリッツ)

シリコンバレーの人々は、イノベーションは変革を起こすと信じていて、しきりに持ち上げるが、マクロ経済の統計上では生産性の向上が確認されていない。この点はマクロ経済学か、ベンチャーか、どちらかが間違っている。(ジョセフ・スティグリッツ)

労働者ベースの今の資本主義は間違いなく、高度に自動化された経済への変革を迫られる。いずれ失業率が30、40%に及ぶ時代が来る。今の資本主義は人々が働くことを前提としている。だからシステムの変更が必要で、上手く機能するシステムの下でなら、人口の半分が働かなくていい世界は悪くないように思える。答えが社会主義だとは思わないが。(スコット・スタンフォード)

結論を家ばグローバリゼーションは金持ちをよりリッチにした。グローバリゼーションは違う成長曲線にある国の人同士が競合する環境をつくった。そのため工場はアジアやメキシコに移る。先進国では雇用が失われ、空洞化した。あぶれた人々がトランプに投票した。(安永竜夫)

金融危機以降、デグローバリゼーションが起こった。貿易、資本の移動、移民の減少が始まった。(ルチル・シャルマ)

今の人々は権威には何かを変える力がない、と考えている。民衆はその手段、何かを変える力を取り戻そうとしている。それがポピュリズムとなっている。現在のシステムはあらゆる自然資源、社会資源を浪費している。資本主義は主にプロテスタントの倫理によって動いていた。かつて勤勉は富をもたらした。今、際限のない欲望によってそれが破壊されようとしている。欲望が倫理を破壊する。企業が一部の人に法外な報酬を支払っているのを見ると、社会の空気が悪くなる。すると社会に対する信頼が失われる。本来この信頼が資本主義に必要なものだったはずで、強欲には何らかの制限があるべき。信頼に基づく社会が必要だと考えるのならば、これが必要だ。(パリ政治学院の学生たち)

際限のない欲望がリスクをもたらす。どれだけ多くの人の食い扶持を奪っても欲望が満たされることはなく、社会が破壊される。倫理観はなくとも私利の対強が社会福祉になる、とアダムスミスが都合よく解釈されているのではないか。実際には私利の追求が社会を破壊しているのではないか。

中国やインド、ブラジル、ナイジェリア。今のどの国も金融危機以前のような高い成長は達成していない。低成長はこれからも続くとみられる。しかし人々が低成長を感じるのは2008年以前と比較するからだ。たしかに1950-2008年の平均成長率は4%近かった。しかしこの時期を除いた成長率を見ると、いまの低成長はむしろ成長の速い部類に入る。(ルチル・シャルマ)

1970年代、80年代の日本の産業は欧米のテクノロジーを最適化していればよかった。強力な執行部がなくても管理職と末端が仕事をこなせば繁栄した。
90年代、00年代の日本はペースメーカーだった。今の日本は戦略的決定ができる執行部を必要としている。(ジョージ・ハラ)

1950-2008の高成長をけん引した要因はいくつかあるが、それらは二度と戻ってこないものだ。まずは人口爆発だった。今人口増加率は極端に下がった。労働力増加率も下がった。これをdepopulation bombと呼んでいる。2つ目の重要な要因として債券市場の爆発があった。高成長時代に世界のGDPを押し上げていたものはその実、借金だったのだ。債権の増加は経済成長のカギであり、1980-2008年に債権市場は高騰してる。この時期に金融セクターのデレギュレーション、低金利、低インフレがあった、というのがその理由だ。この自転車はどうやら終わった。経済理論は現実の経済崩壊に追い付いていない。経済学にはデフレについての研究がほとんどない。理論上の可能性でしか語られていない。(ルチル・シャルマ)

エマニュエル・トッドはグローバリゼーションに否定的でグローバリゼーションファティーグという言葉を作った。ではなぜ世界は疲れたのか。
フリートレードは賃金を破壊した。これにより需要が欠乏するようになった。結果、成長を鈍化させた。いま世界は保護主義へとむかっているように見える。皮肉にもこの施策は賃金を上昇させている。まだ結果は見えないものの、デグローバリゼーション、保護主義により成長率は上昇し、貿易が盛んになる可能性がある。
しかし全ての国が関税をかけ始めたら、いずれ悪いことがおこるのではないか。
19世紀の終わり、世界は保護主義だった。ドイツが始めた体制だが、その時は結果的になにも悪いことは起きなかった。経済学は世界の需要の総計ばかり気にし、自由貿易が需要を縮小させている可能性を見ようとしない。国の安定こそがケインズ主義であるはず。今、あらゆる国が貿易黒字を目指している。中国、日本、EU、タイ。この状況では需要が不足するのは当然である。グローバリゼーションが世界の需要を奪い合っているのだ。ケインズがこれを見たら、クレイジーというに違いない(エマニュエル・トッド)

実際ケインズは行き過ぎた国際的分業を好ましくないとしている。単純な自由貿易論者ではなかった。何よりも恐ろしいことは大量失業である、とケインズは語っている。ケインズは、国は金を借りてでも仕事を作れと説いている。これは金融危機以降流行りになった。

しかしケインズは7年も8年も財政赤字を続けろとは言わなかった。人々は都合よくケインズの半分を利用している。成長するために悪用している。危機以前のような水準に戻すことはできないと悟らなければならない。人々は中国がいまだに6%の成長を続けていると思い込んでいるが、GDPという指標は欺瞞に満ちている。サブプライムローン時代のアメリカでは3ドルの借金がGDPを1ドル押し上げたと言われている。今、中国では4ドルの借金ががGDPを1ドル押し上げている。中国は6%の成長を続けていてすごいとおもうかもしれないが、これは続かない成長だ。(ルチル・シャルマ)

当時のウォールストリートは短期主義だった。ケインズはリスクはコントロールできるとしたが、一方で不確実さ(uncertainty)は別の問題だともいった。ケインズ以前の経済学は物理学のように厳密な物として考えられていたが、不確実さはそれを否定した。経済は機械時計のようには動かない。理論の中にリスクを考慮することはできるが、不確実性を考慮することはできない。

起こることの確率が分かっているのがリスク、サイコロの形さえわかっていない物が不確実性だ。経済学では人の寿命や天気はリスクであって不確実性ではない。リスクは計算できるが不確実性は計算できない。(トーマス・セドラチェク)

世界金融危機の後、収入、貧富の格差が広がった。世界経済にeasy moneyが流れ込んだ。このeasy moneyは不確実さとリスクの境界を曖昧にする。(ルチル・シャルマ)

easy moneyとはお金をお金に変える錬金術であり、資本主義の原罪だ。利率という錬金術が時間をお金に変える。短期的利益の追求が不確実さとリスクの境界を曖昧にする。来年の暴落は十年後には無視できるかもしれないという意味か。

資本主義はコペルニクス的転換を必要としているのかもしれない。(トーマス・セドラチェク)

タツオ・安永
日本は欲望に基づいた資本主義の先を行っているのかもしれない。これがサスティナブルな資本主義なのかもしれない。

21世紀、会社は株主の物という考えを改める方向に向かっている。会社は従業員のものであり、取引先のものであり、コミュニティ、顧客、地球の物。これが企業のmatrix。マトリックス無くして企業は存在しえない。利益はマトリックスに還元されるべきだ。ジョージはこれを public interest capitalism と呼んでいる。(ジョージ・ハラ)

ジョージ・ハラ
お金を回して経済を再生することは不可能だ。雰囲気を変えることはできるが、できることはせいぜいそこまで。(ジョージ・ハラ)

人々は何かあった時のために現金を持つことを好む。不安があるときは特に。このために一定規模のお金が効率的に運用されないという問題をはらんでいる。これが今の経済だ。アインシュタインがニュートン物理学をひっくり返したとき、途端にすべての点がつながった。我々が必要なのは新しいケインズなのかもしれない。

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元バックパッカーの引きこもり、世界に飛び出す引きこもり。当初は役立つ情報を、と思っていたんだけど自分の興味しか書けないね。

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