ラップランドの創造神話

02 10, 2016
ラップランド神話の記事が長くなりすぎるので分割することにしました。ラップランドの神様の一覧記事はこちらから。

サーミ人の創造神話
サーミには2つの創造神話が残っている。最初に紹介する「太陽の娘の死」は断片しか残っておらず全体像が見えない。そのためサーミ人の創造神話といえば「巨人の国の太陽の息子」であり、サーミ人の世界観を知る重要な資料となる。ちょっとルイス・キャロルを意識した後者は忠実に訳すならば「太陽の息子の求婚 in 巨人の国」となる。こちらの神話ではサーミ人が太陽の子孫であることが語られている。ちなみに、この記事でも後で紹介しているが、サーミ語では太陽と太陽神の名前は同じ語である。

太陽の娘の死
太陽の娘が死の床についている。
彼女は太陽に会いたいと願う。
息子と孫娘がみまもる中、太陽の娘は再び太陽が昇るようにと祈りを捧げる。
息を引き取る最後の瞬間に、彼女は太陽に懇願する。再び姿を現すようにと。
彼女はサーミの人々を愛しており、彼らの苦しみを和らげてあげたかった。

巨人の国の太陽の息子
こちらは伝説上のサーミ人の祖先、ガイライバイルトニト(Gállá-bártnit)の出自に関するお話、冒険譚である。

あるとき太陽の息子の国は女性不足になり、太陽の息子は月と太陽の西へと嫁探しの旅に出る。月と太陽の西方は貴重な金属と宝に満ちていると考えられていた。

選りすぐりの従者を従えて国を出て、1年もすると太陽の息子の一行は巨人の国へとたどり着く。その地で太陽の息子は盲目の父親を連れた巨人の娘に出会い、2人はひと目で恋に落ちた。太陽の息子は巨人の娘を貰い受けるために父親と綱引き勝負をすることになる。その勝負では、巨人の娘が太陽の息子を勝たせるために策を弄したために太陽の息子が巨人を打ち負かす。

太陽の息子と巨人の娘は結ばれ、鯨の皮の上で結婚式を挙げた。ここで「彼女は乙女の靴を脱ぎ、彼の鍵を受け入れた」という表現で肉体的な関係を持ったことが示唆されている。彼らは小船に巨人の娘の用意したいくらかの金と銀を積み込み、息子の国へと旅立った。一方で巨人の娘の兄弟たちは娘がいないことに気がつき、太陽の息子を追う。しかしこの兄弟達はひとたび太陽の光を浴びると石化してしまった。

太陽の息子の国にたどり着いた2人は今度はサーミ式の結婚式を挙げた。この二人の子供達がガイライバイルトニト(Gállá-bártnit)、サーミの祖になった。ガイライバイルトニトは後に空へとのぼり、夜空に身を落ち着けた。

※備考、私見
夜空で輝くガイライバイルトニトというのは、すなわち白夜のことを語っているとも考えられているようだ。「太陽の娘の死」にしても、もう一度太陽が昇るようにという願いは極夜のことを連想させる。太陽が隠れるという神話はよくあって、しかしこういうのは大体日食と結び付けられているのだが、白夜、極夜というのは北極圏らしくて興味深い。性交渉により人々が作られたかのような描写も創造神話としてはめずらしい。

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ラップランド神話

02 06, 2016
サーミ神話、ラップランド神話
サーミ人の神話について軽くまとめてみようと思う。検索であまりヒットしなかったというだけの理由でまとめてみようと思う。間違いがあればコメントで教えていただきたい。英語の資料を見ているのでカタカナの固有名詞はわたしの勘です。

まずは基本知識。サーミ人はノルウェイ、スウェーデン、フィンランド、ロシアにまたがる地域、ラップランドに暮らす先住民族。ラップ人とも呼ばれ、シベリアに広がる部族との類似性から東から移り住んできたと語られることもあるが、最近の研究では氷河期終わりに氷河の後退に合わせて北ヨーロッパから北進した人々だと考えられている。サーミ語を話すが文字を持たなかった。カトリックの宣教師がサーミの宗教について書き残しているが彼らは多分に無理解であり、偏見を含み、さらにはその後のサーミの宗教にキリスト教的価値観を持ち込んでしまっている。つまり純粋なサーミの宗教は失われてしまっている。

北欧の神話と言えばユグドラシルだとか、トール、オーディンを思い浮かべるが北欧神話とは別系統である。加えてフィンランドのカレワラという神話もあり、とくにこちらはラップランド神話と相互に影響しあっているように見えるものの、別系統である。16世紀からラップランドにキリスト教が入り込み、19世紀にはサーミの信仰はほぼ失われた。

サーミの宇宙観では、世界は現実世界と、サイヴォ(Saivo)と呼ばれる天界、死者の世界の3つからなる。死者の世界は地下に広がる。人は2つの魂を持つと考えられており、1つは生の魂。これが肉体を離れるとそれは死を意味するが、2つめの「自由な魂」は肉体を離れることが出来る。この自由な魂が病に関係しており、ノアイデ(Noaide、ノイド、ノイッデとも)と呼ばれるシャーマンは自由な魂の媒介者としての役割を持っている。エヴェンキのシャーマンに比べ、ノアイデは普段はわりと普通の村人であり、太鼓や歌(joik)、またはキノコなどでトランスする。このトランス状態をサーミはディラン(Dirran)と呼んだ。

サーミの家はゴーティ(Goahti)とよばれ、家であり祠であった。そのため家に神々が住まう。

サーミ人の創造神話
長くなりすぎるのでラップランドの創造神話は別の記事に分割しました。「ラップランドの創造神話」はこちらから。

ラップランドの神様の一覧
色々なサイト、資料からかき集めたが、地域、時代によりバリエーションがあるので矛盾があるかもしれない。

ユブメル(Jubmel、Ibmel)
ユブメルはフィンランド語で神を指すユマラ(Jumala)という語に対応する。スウェーデンのサーミはラディエン・アトイェ(Radien-attje)を最高神としているが、これはユブメルと同一のものと考えられている。宇宙を司る神であり、サーミ人は毎年秋になるとユブメルのために柱を立てていた。これは神話に登場する世界と空を繋ぐとされる「世界の柱」を模したもの。この柱は地球の中心と北極星を結んでいると考えられていた。このあたりの話はフィンランド神話でいうサンポ(Sampo)という神秘的な人工物がこれにあたると思われる。生を司る神であり、多産の神、豊穣の神でもある。

スウェーデン・サーミのラディエン・アトイェ(Radien-attje)はラディエン・アッカ(Radien-akka)、ラディエン・パルドネ(Radien-pardne)と三位一体をなす。この三位一体の概念はキリスト教宣教師との接触によりもたらされた考え方という見方もある。

ベイヴェ(Beivve、Beaivi)
太陽であり、太陽神である。主に女性として描かれる。地域やバリエーションによっては男性として語られることもあるが、太陽神を女性とするのは日本と通ずるところがある。冬至には白い牝のトナカイがベイヴェに生贄として捧げられ、玄関にはバターが塗られる。北極圏の冬至と言えば極夜、日が昇らない時期なのでこの儀式には大きな意味があったのだろうと考えられる。ベイヴェ・ネイタ(Beivve-neita、太陽少女の意)という娘がいる。太陽の神ということで当然豊穣、繁栄の神。ベイヴェが戻ってくる時期、すなわち極夜の終わる時期には精神的に病んでいる者に対して祈りがささげられる。サーミ人は精神病や鬱は日照の不足が原因になっていると考えていた。

アクニディ(Aknidi)
太陽の娘。彼女は人間と暮らしていた時期があり、人々に刺繍、神話、歌などを教えた。しかし人々が彼女の美しさと才能に嫉妬するようになり、彼女は耐えかねて天界へと帰っていった。

マノ、マヌ(Mano、MannuまたはBassa Aske)
月を司る女性神。日本では太陽は女性、月は男性だが、サーミは両方女性ということになる。気まぐれな神。新月の期間、とくにクリスマス前後の新月に信仰を集める。手元の資料に「クリスマスの期間」と書いてあるがそれが極夜だからなのか、キリスト教の影響なのかは分からない。この期間に騒音を立てることはタブーとされている。

ニエキヤ(Niekija)
月の娘。赤い顔に銀の髪を持つ。太陽神ベイヴェの息子ペイヴァルケ(Peivalke)がニエキヤに言い寄ったため、月は娘を島に隠してしまう。そこでオーロラ(グオプヴサハサットの項を参照)のリーダー、ナインナス(Nainnas)と出会い愛し合うが、月は彼らの関係を認めなかったためニエキヤとナインナスは夜空にお互いを見つめ合っている。

ホラガリスまたはウッコなど(Horagallis、HoragallesまたはToragallis、Dierpmis、Tiermesなど)
雷の神。両手にハンマーを持った姿で描かれる。かつては北欧神話の雷神トールと同一視する向きが強かったが否定的な見解も多い。雨を降らせているのもホラガリスと考えられており、豊穣の神である。虹はホラガリスの弓でありホラガリスはこれを用いて悪霊やトロールを撃退する。怒りっぽい面をもっており、洪水や山火事をもたらす。人々はホラガリスの機嫌をとるために生贄を捧げる。

アッカ(AkkaまたはRowan、Raudna)
ホラガリスの妻、老婆である。ホラガリスをトールと同一視するならば北欧神話のシヴにあたる。アッカ(Akka)は複数形にすると女神を意味する一般名詞になる。

ディエルメス(Diermmes)
ハンマーを持った雷の神、巨人。嵐を操り、片手には虹を持ち、もう一方の手には雷を起こす弓を持つ。ではハンマーはどこにいったのだ。伝説のトナカイ、ミーンダス・ピーレ(Meandas-pyyrreまたはCoarveheargi)、すなわち白い体に黒い頭、燃える瞳に銀の毛皮、金色の角の生えたトナカイを追っている。最終的にディエルメスはこのトナカイに一本目の矢を命中させるが、それがために雨は降らなくなり、世界は荒廃を始める。二本目の矢が命中すると山々は火を噴き始め、氷を融かし始めた。そしていざとどめを刺す段になると、太陽と月は隠れ、世界が終わった。(ホラガリスのようでもあり、北欧神話のトール、ヨルムンガンドの様でもある。)

ビエゴルマイ、ビエグオルマイ(Bieggolmai)
風の男の意。風と嵐を司る気まぐれな神。手には2つのスコップを持ち、それを用いて彼の洞窟から風を送り出す。風神といえば袋から風を送り出したり、吹いたり、扇いだりするものというイメージがあるがスコップとは斬新だ。

スィヤチイェオルマイ、チャッツェ・オルマイ(Thjathjeolmai)
水の男の意。湖と川を司る。すなわち魚の恵みをもたらしてくれる。スィヤチイェ(Thjathje)は水を意味し、この言葉は北欧神話の巨人、スィヤチが語源になっているという話もある。

ボアイェナスティ(Boahjenasti)
北極星。世界を回している柱。お供え物により世界が維持される。(神格かどうかよく分からなかった。)

レイブオルマイ、レイボルマイ(Leibolmai)
血の男、またはハンノキの男の意。狩の神。森の動物達の支配者でもある。そのため狩人たちはレイブオルマイに生贄を捧げる。レイブオルマイは後述の家の中に住まう神、すなわち女性たちの神と仲が悪い。レイブオルマイは女性を侮っている節があり、これはサーミ人の狩猟生活における男女の役割の違いに原因があると考えられている。

ヤブメアッカ、ヤンベアッカ(Jabmeakka)
サーミの宗教では、死後の世界をヤブメアイモ(Jabmeaimo、Jabma Aimo)と呼び、これは地下に存在する。そしてヤブメアッカはこの地下世界を支配する死の女神である。信仰に適った生活を送った者はヤブメアイモで体をもらい、しばらくこの世界に留まったのちにサイボ(Saivo)、すなわち天国へ送られる。サーミは人が病気になるのは「自由な魂」が攫われるなどしてヤブメアイモに迷い込むためだと考えていた。そのためノアイデ、つまりシャーマンは自らの「自由な魂」をヤブメアイモに送り込み、患者の魂を探したり、ヤブメアッカと交渉をしたりする。

ロタ(Rota)
サーミの宗教にはもう一つ死の世界が存在する。これはヤブメアイモよりも悪い意味を持ち、さらに深い地下に存在する。この2つめの死の世界はロタイモ(Rotaimo)と呼ばれ、ロタが支配する世界である。ロタは病や死を擬人化したものと考えられている。そしてロタはサーミの文化にはあまりなじみの無い「馬」にまたがっている。サーミが馬にあまりいい印象を持っていないのはそれがノース人の移動手段であったからとも考えられている。自然の摂理に反するような生き方をしたものはヤブメアイモではなくロタイモに送られる。死者はここでやはり体を与えられるが、二度とロタイモから出ることは無い。

イーナン(Eanan)
地球の神格。空色の女神。あるいは色は移り変わるとも言われるが、サーミの人々が地球の青さを知っていたとすればムーが喜びそうだ。

ゲッデキス・アッコ(Geddekis Akko、またはGeddekis Galggo)
風と天気の支配者。悲願を叶えられたらしい。(詳細はもう少し調べたいところ。)

住まいの中の神々、あるいは精霊
宗教における男女の差がサーミの宗教の特色である。極端に言えば男女で違う信仰を持っているともいえる。これらは彼らの営む狩猟生活において男女の役割がきっぱりと分かれていたことに由来すると考えられている。つまり男にとっての宗教は狩であり、漁、天候に関することであるのに対し、女性にとっての宗教は家の中のことに限られる。以下に説明するマターアッカ(Materakka)と3人の娘、サルアッカ(Sarakka)、ウクスアッカ(Uksakka)、ユオクスアッカ(Juoksakka)が、女性にとっての神であるといえる。文献によっては上に述べた神々と区別し、下に述べる存在を精霊としている。

マターアッカ(Materakka)
偉大な母、または偉大な祖母の意。住まいの壁に宿るとされている。

サルアッカ(Sarakka)
糸を紡ぐ女の意。暖炉の下に宿る。火の母であり、人々は暖炉に自分の飲み物を振り掛けることでサルアッカを信仰する。人間の出産の神であり、また家畜の繁栄も担う。サルアッカは彼女の母であるマターアッカや他の姉妹とことなり、男性からも信仰を集める点に特徴がある。

ウクスアッカ(Uksakka)
戸口の母の意。戸の中に宿る。子供、とくに歩き始める年頃の子供の守護者である。

ユオクスアッカ(Juoksakka、Juksahkka)
弓の母の意。彼女は家の最も奥、暖炉の後ろに住まう。ユオクスアッカは胎児が男の子であるか、女の子であるかを決める。(玄関近くに住むとする情報もある)

ボアソアッカ(Boasso-ahkka)
神聖な場所、儀式を守護する家に住まう神。

住まいの神々の役割
宣教師ジェンス・キルダル(Jens Kildal)は1740年頃にアッカの役割について記録を残している。それによるとサーミ人は、受胎が成立した時点では人間は全て女性であると考えていたようである。

彼によれば、人がひとたび妊娠すると最高神、ラディエン・パルドネ(Radien-pardne)は新しい魂をマターアッカへと送る。マターアッカはその魂をサルアッカに渡し、サルアッカが妊婦の子宮へと届ける。火の神であるサルアッカはもっとも妊婦に近い位置に居るということのようだ。お供え物など、正しい信仰が示されれば、ユオクスアッカは胎児を男の子へと変化させ、ユオクスアッカはその男の子の胎児を彼女の敵であるレイブオルマイに渡さなくてはならない。サルアッカは出産を見守り、無事に子供が生まれれば、今度はウクスアッカが子供を守る。

その他の超自然的存在
アッチェ(Attje)
神々を指す一般名詞。

アルネ(Arne)
宝が隠されているアルネハウデ(arnehawde)という洞穴の守護者。彼らの発する煙により、人々はアルネを発見することが出来る。

グフィタル(Gufihtar、またはMaahiset、Saiwo-olmah、Ulda、Underboniga、Vittra、Kadnihah)
地中に住む人々。運よく彼らの土地を訪れる機会があったとしても、あちらで飲食をしてはならない。さもなくば帰ってこられなくなるらしい。

グオプヴサハサット(Guopvssahasat)
オーロラたち。美しさを讃えない者に罰を与えるとされる。グオプヴサハサットのうちのいくらかは固有名を持っている様子。

ハルディ(Haldi、またはMaddu)
精霊。土地や動物、森、岸や川、山など全てに宿る。

ジータニス(Jeetanis)
巨人。必ずしも敵視されているわけではない。ラップランドではしばしば巨大な岩などがジータニスと名づけられた。

パドナキュンネ(Padnakjunne)
人食い人型生物。犬のような鼻をしている。(もう少し調べたい)

ストゥオラ・ヨヴンナ(Stuorra-Jovnna)
神話の登場人物。狼になったとされる。

トンタ、トント(Tonta)
特定の場所を守護する片目の精霊。某パンツアニメで有名になったものよりも大きいのではないかという気がする。

ヴオルウロ(Vuorwro、またはHeiman)
夜に徘徊する女性の精霊で、水を置いていない部屋で寝ているものを食べてしまう。

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Author:じょなさん
元バックパッカーの引きこもり、世界に飛び出す引きこもり。当初は役立つ情報を、と思っていたんだけど自分の興味しか書けないね。

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